呆けた⁈

親の介護は突然始まります。私は「お父さん、呆けた⁈」と思わず当事者の父に尋ねたほどです。親の年齢的にいよいよきたかという思いと、どうか違いますようにといった気持ちが入り交じり、私自身も混乱したのを覚えています。家族でさえそうなのですから、父もとても困っているようでした。

父の老化の進行は感じていましたから、認知症に対する認識は私にもありました。ですから、私なりに認知機能の低下に対してのアンテナは張っていたつもりだったのです。物忘れ症状には、先のごはんに何を食べたかを忘れてもセーフで、食べたかどうかを忘れたらアウトという程度に基準も持っていました。と同時に身体機能が低下したのなら、できる範囲でできるだけながくできるだけの介護を家庭でしたいとも思っていました。

それなのに私自身が、父の認知症をすぐには受け入れられませんでした。認知機能の低下こそ否定できないものの、目の前の父はへんだったのです。

「何か見えてるのかもしれませんね」という付き添い時に聞いた、診察中の医師の言葉が妙に耳に残りました。かかりつけの内科を、先ず受診させたときのことです。血液検査と頭部CTの結果から、身体の疾患の症状ではないと言われました。加えて父は、今回の症状がでるまえからうつ病の薬を精神科で処方されていました。その薬と今回の症状との関係をはっきりさせるため、検査結果を携えて精神科へ行くよう内科医の指示がありました。

診察の結果、レビー小体型認知症という診断がおりました。

数時間にわたって部屋の壁の一点を見つめたり、服を脱いでお風呂に入ったかと思ったらすぐに出てきた理由が「誰かいる」だったりといったことの原因が、認知症だったのです。それは私の思っていた認知症とは違っていました。まして幻視症状が、いきなりでるとは思っていませんでした。

そもそも認知症というのは疾患名ではなく、症状や状態の総称です。持続的な認知機能の低下、もしくは日常生活に支障がでるほどの認知機能の低下がみられると、認知症と診断されます。認知症の症状をもたらすさまざまな原因疾患があり、レビー小体型病(びまん性レビー小体病)やパーキンソン病などの場合がレビー小体型認知症です。そして認知症にはいくつかの種類があり、多くの人がまず思い浮かべるのがアルツハイマー型認知症だと思いますが、認知症全体の60%以上を実際占めています。加えてアルツハイマー型・血管性・レビー小体型・前頭側頭型が認知症全体の90%以上を占めていて、4大認知症と呼ばれていますが、レビー小体型認知症患者はそのうち数パーセントにすぎません。

認知症といえば、物忘れや理解力の低下をイメージする人が多いのではないでしょうか。それなのにレビー小体型認知症の初期段階では、物忘れよりも幻視症状がでることが多いとされています。現実にはないものが見えてしまう症状です。レビー小体とは、脳の神経細胞にできる特殊なたんぱく質のことで、視覚を司る後頭葉にそれができると幻視の症状がでます。その一方で、アルツハイマー型に比べて記憶に関わる海馬の萎縮は少ないそうです。加えて父の場合は、手のしびれや歩く姿からパーキンソン病の疑いを、以前に内科で指摘されたこともありました。

同居家族に幻視症状があるとまわりはそれに振り回されます。我が家の場合も、幻視に基づいた父の奇行に母が参ってしまいました。夜昼構わず話しかけたり、雨だろうが窓からも外に飛び出したりするのですから、基本的に夫婦二人暮らしで自身も80代の母はたまったものではありません。母の疲労がピークに達した頃、入院加療を病院から勧められたので、父の意思はわからない状態でしたがそうすることにしました。

その入院中に父に合う薬をみつけてもらえたようで、約2ヶ月後に退院してきた父は、認知症の症状のでた前の父に戻っていました。ただレビー小体型認知症の場合、パーキンソン病症状の悪化と認知機能の低下を防ぐために正しく療養することが大事だそうで、リハビリに特化したデイサービスに、退院後日を置かず通うことになりました。幸いなことにそれから現在に至るまで、認知症症状に父も家族も悩まされることなく過ごせています。認知症が身近になったいま、情報にアンテナを張って最新の知識を身につけて立ち向かわなければとつくづく感じた次第です。

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